歯科医院経営コラム

【歯科事業のライフサイクルで歯科経営を支える】

以前の記事でもご紹介したように、歯科医院にはライフサイクル(創業期、成長期、安定期、終焉期)があります。期ごとに抱える課題が変わっていくため、コンサルティングはまずライフサイクルの特定からスタートすることになります。以下、歯科コンサルタントの立場から、各期の成長要因と危機要因をまとめました。

 

1.創業期の成長要因/危機要因

  • 成長要因:

開業するまでの各ステージで経験した糧を豊かに実らせるべく、最初の一歩を踏み出した時期。恋愛でいえば、出会いから紆余曲折を経て告白、いよいよ付き合い始めた最初の1週間です。ワクワク感にあふれつつも、徐々に粗も垣間見えて、理想と現実のギャップにひるむこともあるでしょう。現実を受け入れてその先を考えないと、些細なことで別れてしまうかもしれません。創業期は先生も若く、体力、気力にあふれています。この時にこそ長期的な戦略や確かな基盤を確立し、地に足がついた経営を志したいものです。よいスタートをきることは、これからの長きにわたる経営者人生において価値あるアドバンテージとなるでしょう。

  • 危機要因: 

今までは上司がいて、頭を押さえられつつも責任を担保してくれているという安心感がありました。しかし今後はすべて自己判断・自己責任です。医師会や大学の先輩も、アドバイスはくれても責任はとってくれません。

「大丈夫」「問題ない」「俺もそうだった」などの言葉で、安心させようとする人は多いでしょう。無責任ではありますが、心配事の大半は現実には起き得ないので、「な!大丈夫って言ったよな」で大抵終わります。一方「それはまずいな」「それは問題だ」と危機感を煽り、さらに「ああしろ」「こうしろ」、あるいは「誰それを紹介する」と指図しておいて、決定的に問題が大きくならないことを盾に「俺のおかげだろう」と貸しをつくる人も。こういったことで、一生頭が上がらない関係が続くこともあります。開業直後に閉院するほどの大きな問題が起きる可能性は極めて少ないものです。人の意見に左右されず、現状を慎重に見極めるようにしましょう。

とはいえ開業して間もない年数で、売上がはや減じている場合は危険信号です。わずか年3%の減少でも、年続けば20%の現象になってしまいます。3%の減少に気づかない、あるいは些細なことと見過ごし現実を直視しないでいると、どうなるでしょう。年間3000万円の売上が7年後に2400万円になるのか、それとも3600万円になるのか。それはわずかな違いにいち早く気づき、適切な対応を取れるかどうかにかかっているのです。

歯科医院の開業資金は多額で、都心部では1億円近くになる場合もあります。その開業資金がほとんど回収できていない時期に、なんらかの理由で大きな追加投資が必要になることが稀にあります。創業期に追加投資が必要になるというのは、経営計画自体に無理があったとも考えられるので、抜本的な見直しをはかるしかありません。傷は浅いうちに、とつらい決断をしなければならないかもしれません。歯科医師人生は長く、開業時の失敗は長期的に見れば十分やり直しがききます。リスタートは、時間との闘いです。

 

2.成長期の成長要因/危機要因

  • 成長要因: 

人間や企業と同様、歯科医院も成長期はさほど心配はいりません。成長期とは、経営がうまく回り、弾みがついている状態。すなわち歯科医師として、それまでの成長過程や創業期における選択に間違いがなかったことの証左だからです。この時期に至った先生方は、夢を実現するステージに立っているといえるでしょう。しかしそれゆえに、成長期独特のリスクに足を掬われることがあります。

  • 危機要因:

この時期を迎えた院長先生方は、社会的に見ても成功者です。だからこそ生じるのが、以下の3つのリスクです。いずれも歯科医師に特有のものではありませんが、他の業界と交流が少なく、権力が集中しやすい一国一城の主であるという点で、歯科医院の院長先生は陥りやすいといえるでしょう。

 

①神輿に乗り自らを失う

開業医として成功した先生には、名士としてあらゆる方面から勧誘があります。会や組合の役員・名誉職へのお誘い、政治家との会合、銀行や大企業からの接待など、多々来るそれらは先生が成功していることの証です。

しかし、ちょっと待ってください。これらは先生の人生を豊かにするかもしれませんが、本業の時間を取られることは間違いありません。成長期という最も大切な時期に、医院のエンジンである先生の時間や体力を他のことに費やしていては、間違いなく成長は削られてしまいます。

担ぎ手は、神輿に乗せて気分を良くさせるのが仕事です。彼らを冷静に観察し、逆に利用してやるくらいの腹づもりでなければ、神輿に乗ってはいけません。調子がいい時にこそ、自らを律して初志を貫く意志を固めてください。歯科医師に限らず、神輿に乗って自らの志を曲げ、一気に崩れ去る経営者はいつも一定数存在します。

 

②方向転換を誤る

自らの経営努力によって成長すると、目標を更新することはよくあります。野球選手でいえば、まずレギュラーに、次にタイトルホルダーに、そしてメジャーリーガーにといった具合です。大谷翔平選手のように高校時代からメジャーリーガーになるプランを立て、当然のようにそれを実践する選手は特殊な例かもしれませんが、しかしその天才・大谷選手ですら目標は「野球選手」という括りから逸脱していません。次はサッカー選手に転向しようとか、会社経営に乗り出そうというわけではないのです。しかし成功した院長は、時々そのような方向転換をして負のスパイラルに陥ることがあります。

歯科医院の院長として成功したとしても、飲食店経営者としての資質や能力に長けているとは限りません。また、一つの医院で抜群の能力を発揮しても、複数の歯科医院経営に向いているとは限りません。さらには地方都市における歯科医院経営のノウハウが、そのまま都心でも通用するとは到底いえないでしょう。

挑戦する人生は楽しいものです。歯科医院を上手に取り回しているならば、経営能力があるのでしょう。しかし、それが他の業界や他の地域、類似の経営を成功させる免状とはなり得ません。歯科医院の分院経営は、自らの歯科医院一つを維持するのとは全く違う面があります。成功したからこそ見える、違う景色は存在します。しかし安易な方向転換は、頂から奈落の底に落ちるパスポートになりかねないのは、歯科医院経営に限ったことではありません。

 

③誘惑に負ける

成長期の歯科医院の院長には、名誉、地位、金銭、ギャンブルなど、多くの誘惑が訪れます。そして異性は、何も持っていない人のところには近づきません。成功している先生に近づき、何かをかすめ取ろうとする輩は、優しい顔と声音をしているでしょう。しかしそれらを見抜く目を養ってください。能力は高いのに一瞬ですべてを失う経営者のほとんどは、自らを律しきれなかったことにその要因があるのです。

 

3.安定期の成長要因/危機要因

  • 成長要因:

安定期とは、最も実感のない時期ともいえるでしょう。終焉期を迎えるにあたってデータを眺めたとき、振り返ってみればこの期間が安定期であったのかなと思う、その程度ではないでしょうか。明らかな成長期が過ぎて、自らの体力・気力に鑑みてこれからはチャレンジしなくてもいいかなと感じたとき、それが安定期なのか終焉期の入り口なのかは議論が分かれるところです。

一つはっきりしているのは、院長、スタッフ、抱えている患者すべての人生を考慮して、どのような終焉を迎えるかを考える時期、それが安定期であるということです。この時期には、自らの体力、価値観の変化に加えて、親の介護や子供の進学など、家庭内でも変化が起こります。それらの変化を踏まえながら医院を維持するには、自分たちの人生と歯科医院経営をトータルで捉えて考えていくことが大切なのです。

しかし前述した通り、安定期は実感を持ちづらいもの。そこで医院や家庭の内外に変化を感じたタイミングで、第三者にもう一度組織としての歯科医院経営を評価してもらうことをおすすめします。自らの期待や思惑は別として、医院に十分な成長を促す要因が潜在している可能性があるのかないのか、第三者の公平な目線で評価してもらうのです。結果によっては、終焉期に向けた準備を早急に進めなくてはいけなくなるかもしれません。いわば保険の見直しのように、この時期だからこそ、専門家である歯科コンサルタントの手を借りていただきたいと思います。

  • 危機要因: 

前述した通り、自らが安定期にいるときにはその実感がないものです。手を入れるべき時期の判断を誤ると、後々に無理な投資や展開をすることにもなり、ひいては企業としての歯科医院の寿命を短くしたり、価値を下げたりすることにつながりかねません。

 

4.終焉期の成長要因/危機要因

  • 成長要因:

終焉期における成長要因、というと矛盾するようですが、豊かな老後に向け、前向きな終焉期を形成することと捉えていただければと思います。

豊かな老後とは、何も金銭面のことに限りません。終焉期を迎えるにあたっては、あらためて何に喜びを感じ、何に豊かさを感じるのかを考えてみてください。たとえ金銭的に損だと感じたとしても、喜びがそれを上回るような時は、それは損失ではなく単なる消費となるでしょう。医院を畳んだり譲ったりした後も、人生は続きます。よりよい生き方のために、終焉期に何をすべきかを考えましょう。

また年を重ねることのメリットの一つは、リスクへ備える必然性が減るということです。ただし個人の寿命の観点ではなく、自らが死んだ後に残される人がいるならば、その人の生活も守らねばなりません。遺産を子供や孫、あるいは従業員に残すためには、また患者に迷惑をかけないようにするにはどのようなクロージングが必要かは、経営者として行う最後の大きな決断となるでしょう。

  • 危機要因:

を参照してみると一目瞭然ですが、歯科業界でも、他の業界と同じようにこれから大量閉院の波が確実に訪れます。歯科医院の新規開業は難しく、患者(症例は虫歯から歯槽膿漏、そして嚥下障害へと転換していくことが考えられますが)の数は確実に減少していくでしょう。

 

厚生労働省:年齢階級・性別にみた歯科医師数 (mhlw.go.jp)

 

既存の歯科医院には、これから売れない時代が来るとの覚悟が必要です。それは、歯科医師の大量離脱や患者数の減少だけが理由ではありません。治療内容の変化や医療機器の進化のさらなるスピードアップなど、他の業界と大いに被る時流にも要因があります。これは一個人の努力ではどうしようもないものです。

それでも情報をうまく取り入れ、長期的な計画を立てることによって、よりよい終焉期を迎えることができます。この先、クロージングをなんとなく行うのか、計画性を持って行うのかで、大きな差が出る時代が到来するでしょう。